9年前の今日は、父の最後の誕生日だった。
末期癌で余命3ヶ月と宣告され、入院してから1ヶ月が経過していた。
この日私は、近所でおいしいと評判のケーキ屋さんで、いちばん大きなホールのケーキを買って病室に向かった。
わが家では、元々誕生祝いをする習慣はなく、子どもの頃の私も親に誕生日プレゼントをもらった記憶はない。この日私がケーキを買ったのも、父の誕生祝いをするためというよりも、それを口実に、看護師さんたちに差し入れをするためだった。
多くの病院がそうであるように、父がお世話になった病院も、職員への心付けは辞退する旨が徹底されていたのだけど、日々お世話になっている看護師さんたちに、ちょっとしたお礼がしたかったのだ。
父は、痛みに耐えながら、少しだけケーキを食べた。母と私もケーキを食べて、「食べかけでごめんなさい、でも父の最後の誕生日をみなさんとお祝いしたくて。」と看護師さんにケーキを差し出した。
看護師さんは、笑顔で受け取ってくれた。私の意図も、よくわかっていたと思う。
その頃の父は、モルヒネの使用料量もまだ少なく、記憶も意識もしっかりしていたのだけれど、この日が自分の最後の誕生日になる、ということを感じていたのかどうか、今となってはわからない。
この4ヶ月後に、父は他界した。
父の命日は、何人か、今も覚えてくださる方がいるのだけど、
父の誕生日を覚えているのは、恐らくこの世で私だけだ。
なので、私が生きている間は、父の誕生日を覚えていようと思う。
お父さん、誕生日おめでとう。
お父さんはもう歳を取らないね。私は少しずつ、お父さんの歳に近づいていってるよ。