私の母は、認知症でグループホーム(施設)にいる。
前頭側頭型認知症、と診断されている。
特徴は、『反社会的な言動と行動』、『人格の崩壊』。
ピック病、いうと通じることもある。
おそらくは、10年以上前、仕事をしていた頃から発症していて
少しずつ進行したと思われる。
というような状態なのだけど、
今の母の状態を人様に説明するのが難しい。
認知症の症状、人それぞれだと思うが、母のそれは精神疾患の感もあって
娘の私でも、うまく説明できないのだ。
さらに、症状が進んできた最近の様子を、赤裸々に言葉にするのは
私自身の心も痛いし、
その言葉を受け取る相手の気持ちを、どうしたって考えてしまう。
先週末、40年来の知人と電話で話すことがあり、母の近況の話になった。
私の父くらいの年齢のその人には、子供の頃からとてもお世話になっている。
信頼し、尊敬している人だ。
そんな相手だったから、私も安心して、今の母の様子をありのままに伝える。
それでもやはり、うまく言えないのだが、
そこでその人が
『大丈夫だよ、わかってるよ』
と言われ、受話器を持ちながら涙ぐんでしまった。
たぶん、この「わかってるよ」には、母の様子が察しがつくよ
というだけでなく、私の胸の内もわかっている、という思いがこもっていたと思う。
人が発する言葉には、その人の人柄や人生が映し出される。
私も、相手の心に届く、そして相手の心に温かく触れることができる
言葉を発せられるような人生を歩んでいきたい。
受話器を取るときはどこか身構えていた気持ちが、
受話器を置くときには、穏やかな気持になっていた。